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2023/10/16

株式会社日建スペースデザイン – インタビュー :オルガテック2023出展ブース設計

2023年4月に東京ビッグサイトにて開催されたオフィス家具見本市「第2回オルガテック東京2023」にて、昨年度に引き続き出展ブースの設計をしていただいた「株式会社日建スペースデザイン」のご担当者に今年もインタビューさせていただきました。

株式会社日建スペースデザイン(NSD)
・塩田 雅彦 氏 チーフデザイナー :写真右からお二人目
・遠山 義雅 氏 シニアデザイナー :写真左よりお二人目
・中村 諒  氏 デザイナー :写真左
住商インテリアインターナショナル株式会社(SII)
・山田 明久 取締役営業本部長 :写真右

【去年からの経緯】

SII山田:NSDさんには長い間お世話になっておりますが、おととしの懇親会の席で弊社オルガテック出展の話題となり、「ブースのデザインを是非やっていただけませんか」と打診したことを思い出しました。

去年の素晴らしいブースのデザインがあったので、他のデザイン事務所さんの起用は全く頭にありませんでした。去年のあのデザインを超えるというのは無茶と思いながらも、NSDさんならきっと実現してくださると信頼しておりました。

NSD塩田氏:去年は本当に手探りで、私たちとしても新領域の体験でした。限られた予算の中で3日間を過ごすという大きなテーマは非常に難しかったですが、結果的にSIIさんに喜んでいただき、充実した内容になりました。

今年も継続してこのような機会をいただき、新メンバーによる新しい視点で取り組めたというのが会社としても非常に大きいです。2年連続結果を残せたということも、大変良かったと思っております。

【コンセプト「裏側を魅せる」の着想】

NSD中村氏:昨年末に、SIIさんとともにShawContractさんとAndreu Worldさんと、プロダクトについて色々お伺いする機会がございました。その時にShawContractさんから、米国では、カーペットの裏側に書かれた電話番号に連絡すると、ShawContractさん自らが回収に赴きカーペットがリサイクルされるというストーリーをお聞きしました。

こういった展示会では、カーペットの表の柄が重視され、裏側の思想やブランドのサステナブルな思い、ひたむきな姿勢は隠れがちです。いつもは見えないそういったところを逆に打ち出し、ブランドの思想を直感的に感じてもらえる見せ方をしたいと思い、今回はShawContractさん、Andreu Worldさんのサステナブルな取り組みを打ち出していくことにしました。

裏に電話番号があるという件は、ふとした余談でのお話だったのですが、デザイナーからするととても興味深く、むしろそういうところにサステナビリティを感じたのです。
こういうお話は、きっと来場される方にも刺さると思いました。

「裏側を魅せる」というのはかなりストレートな表現ですが、文字や耳からの情報だけではなく、訪れる方に光景としてまるごと記憶に残してもらいたいと思いました。

【展示の工夫~境界突破~】

NSD-遠山氏:今回のブース設計においては、作る部分と作らない部分の両方を意識しました。展示会のほとんどのブースは、各々の敷地の限界まで櫓を立てて、自分たちの商品を照明で照らして見せていく状況です。

一方で、私たちのブースだけは、周りを自由に回遊できてかつ、隙間のスペースには、会場の通路と同じような材料を使いました。そうすることによって、敷地の境界線が全く見えなくなり、周りの通路も含めて展示スペースとして使うことができるという面白さがありました。私たちはこれを「境界突破」と呼び、当日は接客のしやすさや多くの人だかりにつながりました。

まずはブース内を作る努力というのがあったのですが、それ以外の「作らないところ」をとても活用できたのが大きなポイントです。

【展示の工夫~めくりあがる床~】

NSD遠山氏:カーペットが四隅からめくりあがっている構図については、初めから構造を意識していたわけではなかったです。ただ表と裏を一緒に見せられたらきっと面白い、何か光景として四角い紙がポロポロと浮かび上がっているようなものを作りたい、といったところから始まりました。

普通に折れ曲がったぐらいでは、インパクトがなく遠くからは見えない。また、高さと同時に厚みが出てしまうと、物体が折れ曲がっているだけの表現になってしまう。カーペットがペロッとめくれた感じを出すために、色々と形状の検証を重ねました。高さは出しつつも違和感がないこの形は、平面図でも立体図でも想像できず、最終的にモックアップを見て納得のいくものに仕上げました。

NSD中村氏:この工程についてはムラヤマさん(設営業者様)には大変ご苦労をかけました。
モックアップを見て戸惑いを隠しきれないご様子だったのですが、このライン一つでバランスが全く変わってしまうので、何度も自分の中で妥協しそうな中、粘りに粘って何とか18ミリという厚みを実現できました。

NSD遠山氏:展示会には様々な規則があり、それらを熟知されているムラヤマさんの存在は非常に大きかったです。
当初、壁はもっと低い想定だったのですが、他ブースに埋もれてしまう懸念から高くしたほうがよいというアドバイスをいただきました。
ムラヤマさんには展示会のブース設計全体のアドバイザリー機能を果たしていただき感謝しております。

SII山田:私たちは、どうしても「商材を販売する」という目線で見てしまいます。購入される商材を決めていただけるのは、建築士、設計者、インテリアデザイナー、オーナーの方なので、そういう方々の目に留まるブース設計をお願いしました。

はじめにイメージを見せていただいた時は本当に驚きました。

ただ、プロの方が気付くような視点が随所にあり、プロの方の目に留めてほしいという当社の意思をくみ取っていただけて感謝しています。今回のブースにおける様々な工夫やこだわりは一般の方はなかなか気づかれないと思いますし、当社社員も何人気付いたかなというレベルです(笑)

【展示の工夫~光景を持ち帰ってもらう~】

NSD遠山氏:体感できるようなブース設計も意識しました。

約120ものブースを見回る中で「この商品はCradle to Cradle認証を取得しています」と言われても記憶として残らず、飛んでしまいますよね。

Andreu Worldさんのカタログの中で、椅子が3枚の成形合板でできていることや、本当に土に還るページを見て、この実物が実際に展示場にあれば、体感でき印象に残るだろうと思いました。

カーペットは粉砕されてバッキングとカーペットの表面で使用されている糸がバラバラになってまた戻ってくるサイクルであることなど、印象に残るストーリーを盛り込みながら、展示イメージを考えました。

NSD中村氏:言葉だけではなく、光景とともに持ち帰ってもらうことがとても大事だと思っています。

展示の素材集めには大変苦労しました。Andreu Worldさんには出荷前の状態の椅子をお願いしたのですが、最初はそれを手配するのは難しいと断られてしまいました。しかし、タイミングよく同社のJesus Linares 社長がスペインから来日され、「どうしてもこの展示に必要なのです」とお願いして、ご用意いただくことができました。他にも、当日の朝まで土を用意したりもしていました(笑)

会場では実際にしゃがんで、展示物と説明文の両方を見ていただいている方もとても多かったです。「これって本当に3枚で構成されているのですか?」や「本当に土に還るのですか?」という会話も生まれ、色々と聞きたくなるオブジェクトの置き方もこだわったかいがありました。

SII山田:Andreu Worldさんは、通常はこのような分解された素材は、競合他社も見に来るような展示会では絶対出さないそうです。ですが、今回はご協力いただいて、出すことができました。同業他社の方も遠慮なく見ていましたね(笑)

また、他のブースにはパネル展示も多かったのですが、約120もあるブースで当社が最後のほうに見るブースだと、パネルでは記憶に残らないので、やはり現物を置くというのはポイントだったと思います。

NSD‐中村氏:私自身もこのような展示会に行くことがあるのですが、記憶に残る印象的なブースってどのような感じだろうと考えた際、自分が面白かったものというのはやはり光景で残っているものが多いと感じました。

展示会では多くのものを見聞きするので、インプット過多で疲れてしまいがちです。そんな中でどうやったら立ち止まってもらえて、帰ってからも思い出してもらえるような時間を提供できるか、それを大事にしました。

【展示の工夫~カーペットの見せ方~】

NSD塩田氏:言葉が適切ではないかもしれませんが、割と地味ではあったかもしれません。
実はセッティングの前日に、タイルカーペットはもう少しインパクトがあっても良かったかな、もう少し表情がほしいなと思ったのです。
しかし、いざ始まるとちょうど良い気がして、むしろ主張しないでいるところが良かったと思いました。

SII山田:来場されたある什器メーカーの方が、改めて「住商インテリアってカーペットを扱ってるんですね」と声をかけてくださったり、「デザインが上品やな~」「やっぱり今どきやな〜」「他社とはちょっと違うな〜」といったコメントもいただきました(笑)

「当社は、こういう商材も取り扱ってますよ!」と主張できましたし、みなさん面白がってくださったと思います。オルガテック出展は去年から2年連続ですが、全く違う方法で出展したので来年はどうするのかなあと期待されているかもしれません。
私たちが訴えてきた「カーペット、家具を扱っている会社」というのがうまく伝わったと思います。
その後の問い合わせも多いです。展示会ですべては説明できないので、展示会はあくまできっかけづくりとして、後は営業スタッフがお客様と面談をして、「展示会ではこういう感じだったのですが…」という風に将来に繋げてくれています。

NSD遠山氏: カーペットは、通常床に敷くものですよね。ですから展示というと通常は下を向かないといけない。しかし今回は、裏側だけでなく、実は表側も内側に向かって立ち上がっているので、座りながらカーペットが目の前に見えるのです。床にあったら触りたくないけど、立ち上がっていたら触りたくなりますよね。裏と表、実は表裏一体になっていて、裏側を見せたいから立ち上げたというのもありますが、表としての展示としても成立してるんです。

Andreu Worldの椅子の座り心地を体感しながら、目線の先にShaw Contractのカーペットがある、目と体の両方で同時に体感できます。

【展示の工夫~タグ~】

NSD中村氏:カーペットと家具の周りにはタグが貼ってあり、QRコードを読み取って詳しい情報を見ることができます。洋服の品質表示のタグ風に、カーペットやプロジェクトの情報をキャッチーに見せたくて作ったデザインです。

これも発想は他と同じで、ショールームなどによく置いてある情報が載っているポールみたいなものだと見慣れているので目に留まりません。しかし、ちょっとキャッチーに作ってあると、「何だろう?」と見てもらいやすくなりますよね。

全員ではなくても、何人かでもいいから目をやったその2秒が捉えられるようなデザインができたと思います。

SII山田:このアイデアも素晴らしいと思いました。
ふつうは見本帳を切り取ったものをそのまま出すので実際の商品までたどり着かない。
こういう細かい工夫で私たちのブースでは会話が自然と増えました。

【展示の工夫~墨出しのメッセージ~】

NSD中村氏:こちらのデザインはラインに工夫があります。

構成としては、上段に目を引く最初のタイトル的な言葉と、下段にもう少し気になった人に読んでもらえる言葉の二段構成になっています。

三角形の上部に文字を配置するのが難しかったです。あまり下にすると見えなくなりますし、先端に詰めなくてはいけないけれど普通に置くとどうも違和感がある。そこで、いっそアンバランスでも上に詰めて、裏側にかけて工事現場でよくある墨出し風に直にそのまま書くといった仕上げにしました。こうした方が逆に印象的に見えるのでは、と考え抜いた結果です。

SII−山田:これはプロ受けしましたよね。一般の方は多分気づかないのではないでしょうか。プロの方であればこの墨出しのラインはご存知ですから注目されました。普通に書いてあったらつまらないですよね。

NSD中村氏:ShawContractさんや、Andreu Worldさんに、今一度このプロジェクトの説明をしていただいて、どこを抜き取るかを考え直し、自分だったらどんな一言だったら、この下の文字を読みたくなるか、また、それがどう見えるかというところも紙で印刷して検証しました。

デザインにつながる様々な要素を最初のヒアリングからいただけましたので、打ち合わせを重ねていく中で、理解しながら進めることもでき、これはあれと組み合わせられるな、といった感じでデザインに対するアイデアも高まっていったという感覚です。

【当日やその後の反響】

SII山田:予想以上に多くの方が来てくださったと思います。住商インテリアインターナショナルの名前を知る人は「住商インテリアインターナショナルのブースはどこ?」と私たちのブース目当てでお越しいただけましたし、そうでない人もたくさん来てくださいました。

去年のブースもとても良かったのですが、ブース内に人がいて長居されると他の方が入れないといったことは展示会ではどうしても起こるので、その意味でも今回のデザインは素晴らしかったです。

カーペットの説明をブースの外から実施したというのは、人生で初めてです(笑)だいたいはブースの中で説明するものなので、これは大成功といえると思います。遠くからも、多くの方にご覧いただけました。

NSD中村氏:展示会終了後、とあるメーカーの方から、いつ見に行ってもずっと人だかりでしたよと声をかけていただきました。
周りを人が囲んでいて、中に入って座っている人もいて、その光景がさらに人を呼ぶ。狙ってはいましたが、想像以上に成功しました。

【準グランプリ受賞】

SII山田:実は社内ではどんな展示になるかはほとんど伏せていました。
というのも、展示会では社員がモチベーションを持ってもらうことが大事なので、会場で初めて見せるということを意図的にしました。

当社社長への事前プレゼンの際は「何が言いたいの?大丈夫?」とまで言われてしまいましたが、「当日楽しみにしていてください」と伝えました。
このブースのデザインと意図を紙面上で説明するのも難しかったので、当日びっくりさせてもいいかなと思いました。

当日は斬新な自社ブースのデザインを目の当たりにして、当社スタッフは気持ちが高ぶった状態で展示内容を説明したり、多くの来場者の方々と会話することができたので、結果としては大成功でした。当社では4月から新しい期が始まったのですが、4月の展示会で準グランプリを受賞できたというのは期初のスタートとしても非常に良かったです。

オルガテック出展の打ち上げを兼ねて、NSDさんに今回のブースデザインについてのプレゼンテーションをお願いしたのですが、当社内では大変喜ばれました。どういうコンセプトなのか、どのようにブースの設営を進めていったのか皆がよく理解できたのは良かったです。

【ShawContract、Andreu WorldとSDGs】

SII山田:家具やカーペット業界においても環境問題は無視できないトピックです。ShawContractやAndreu Worldが北米市場で売れているのは、デザインはもちろんのこと、環境に対する取り組みへの評価によるところが大きいです。私たちは海外の情報に強いので、日本のお客様にこうしたメーカーの先進的な取り組みをうまく伝えていきたいです。

今回の展示会にこの2社を選んだのも環境というキーワードが大きく、業界全体で環境に対する意識が高まり同じような商品が増えています。

【最後に】

SII山田

オルガテック東京への出展を通じて、当社の業界内でのプレゼンスはとても上がったように思います。ブースにお越しいただいた方には役職が上の方が多く、一部の大手メーカーさんの中には、お客様とご一緒に来場され、当社をご紹介いただくこともありました。

また、展示会以降Andreu Worldに関するお問い合わせが増えました。従来は、スペックワークと呼ばれる活動の中で自らが製品を売り込む必要があったのですが、全く知らない案件の中でAndreu Worldの問い合わせを受けることが増えました。

NSDさんとムラヤマさんのご協力のおかげで、私自身も非常に良い経験をさせていただきました。又、NSDさんとはオルガテックだけではなく、社員同士が密になれるように、もっともっとご一緒できればと思っています。

NSD塩田氏

昨年に引き続き、オルガテックを通じてSIIの皆様と良好な関係性を築くことができたのが非常にありがたいです。

今年は特に結果もついてきて、NSDメンバーの自信にもなりましたし、今後の仕事の後押しにもなると思うので、本当に感謝しております。

NSD遠山氏

楽しかったです。

本当にデザイナー冥利に尽きるプロジェクトだったなと思います。限られた時間の中で6m×8mの小さい面積に落とし込むという、これぞデザイナーの仕事という感じでした。デザインとは一つの課題解決の手法ですが、今回は課題をとても明確にいただいていて、それに対しての解決策を色々提示しました。たくさんのディスカッションの中で、「これは俺の好みじゃないんだよね」といった意見は一つもなく、みなが同じ方向を向いて課題解決を目指しました。だから、結果としていいものができた。ゴールに向かって一致団結できたというのが、本当にありがたいです。気持ちよく仕事ができました。ありがとうございます。

NSD中村氏 

このプロジェクトで印象的だったのは、SIIさんへの最初の素案プレゼンの際に、普通であれば「A案かB案かどちらにしましょうか」という会話になると思うのですが、SIIさんからは「NSDさんはどれがいいですか?」と(笑)

これは悪い意味ではなく、本当に私どもを信頼してくださっていると感じました。常に信頼して任せていただけたので、最後の細かい作業までより良いものにしたいという気持ちを強く持って取り組めました。

はじめは家具とカーペットの展示ブースのデザインというプロジェクトととらえていましたが、進むうちにもっといろんなスケールのことを考えだしました。どうすれば展示会場の人々の目を留められるか、家具・カーペットの何を訴求するか等デザイナーとして様々な経験をすることができ感謝しております。